公開日:2025年11月19日
「会社を継ぐとき、税金がどれくらいかかるのか」─これは多くの後継者が抱える最大の不安です。そんな悩みを大幅に軽減できるのが「事業承継税制」です。2025年度の最新改正では、制度の使いやすさがさらに向上し、選択肢も広がりました。本記事では、制度の仕組みから適用要件、注意点までをわかりやすく整理します。
※この記事は執筆時の情報を基に作成をしております。そのため、最新の情報とは異なる場合があることをご了承ください。
事業承継税制は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)に基づく認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
2025年度の税制改正では、後継者の役員就任要件の見直しが行われ、従来「贈与前までに3年以上役員であること」の要件が緩和され贈与直前に役員であればよいこととなりました。これにより要件のハードルが下がり、実務上の適用機会が増える可能性があります。
この事業承継税制には、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」と会社の株式等を対象とする「法人版事業承継税制」があります。
2019年度の税制改正で創設されました。
青色申告の事業(不動産貸付業等を除きます。)を行っていた事業者の後継者が、2019年1月1日から2028年12月31日までの贈与または相続等により特定事業用資産を取得した場合は、贈与税や相続税が猶予されます。そして、後継者の死亡等によりその猶予されている贈与税や相続税が免除されます。
中小企業の後継者が、円滑化法の認定を受けたその非上場会社の株式等を贈与または相続等により取得した場合、その非上場株式等に係る贈与税又は相続税が猶予されます。そして、後継者の死亡等によりその猶予されている贈与税や相続税が免除されます。
一般措置と特例措置の2つの措置があり、その概要は次の図のとおりです。 なお、特例措置については、2018年1月1日から2027年12月31日までの10年間の措置とされています。

(国税庁「事業承継税制特集」より抜粋)
2018年度の税制改正により設けられた特例措置は、すべての株式が猶予の対象となったため、贈与税と相続税の負担がなくなりました。一般措置では、対象になる株式数と猶予される税額の割合が決まっており納税が必要でしたが、特例措置はこれまでの縛りを撤廃する制度となっています。
ここからは、法人版事業承継税制について詳しく見ていきます。
事業承継税制の適用を受けるには、次の要件を満たしていることにつき、都道府県知事の経営承継円滑化法の認定を受ける必要があります。
①上場会社、風俗営業会社でないこと
②中小企業であること
※業種によって資本金と従業員数の要件が定められています。
※医療法人や社会福祉法人、外国会社、士業法人は事業承継税制の対象となる中小企業者に該当しません。
(中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」より抜粋)
③資産管理会社(一定の要件を満たすものを除きます。)でないこと
※資産管理会社とは、総資産に占める非事業用資産の割合が70%以上の会社(資産保有型会社)及び、総収入金額に占める非事業用資産の運用収入の占める割合が75%以上の会社(資産運用型会社)をいいます。
ただし、常時使用従業員が5名以上いる等、事業実態があるものとして一定の要件を満たす場合には資産管理会社には該当しないものとされます。
①贈与の時において、会社の代表権を有していること
②贈与の日において、18歳以上であること
③贈与の直前において、会社の役員であること(特例措置)
④贈与の時において、後継者及び後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
⑤贈与の時において、後継者の有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること(特例措置)
イ後継者が1人の場合
後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除きます。)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
ロ後継者が2人又は3人の場合
総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者(他の後継者を除きます)の中で最も多くの議決権数を保有することとなること
①会社の代表権を有していたこと
②贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
③贈与の時において、会社の代表権を有していないこと
納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。
※この制度の適用を受ける非上場株式等のすべてを担保として提供した場合には、納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保の提供があったものとみなされます。
後継者は、次の(1)又は(2)の区分に応じた一定数以上の非上場株式等を取得する必要があります。
(1) 後継者が1人の場合
次の①または②の区分に応じた株数
① a≧b× 2/3 -cの場合・・・「b × 2/3 -c」以上の株数
② a<b× 2/3 -cの場合・・・「a」のすべての株数
(2) 後継者が2人または3人の場合
次のすべてを満たす株数
①d≧b×1/10
②d>贈与後における先代経営者等の有する会社の非上場株式等の数
a:贈与の直前において先代経営者等が有していた会社の非上場株式等の数
b:贈与の直前の会社の発行済株式等の総数
c:後継者が贈与の直前において有していた会社の非上場株式等の数
d:贈与後における後継者の有する会社の非上場株式等の数
全体の手続きフローは次の通りです。
(中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」より抜粋)
特例措置を受けるには、『特例承継計画』を作成し、都道府県知事に提出し確認を受けなければなりません。特例措置の期限は、2026年3月31日です。早めに準備しましょう。
また、特例承継計画は原則として、経営革新等支援機関による指導と助言のもとに策定する必要があります。
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先代経営者の持っている株式を100%贈与すれば、すべての株式に対して納税猶予や免除を受けられる可能性があります。贈与するときは事実を客観的に示すため贈与契約書を作成しましょう。
会社の要件、後継者(受贈者)の要件、先代経営者(贈与者)の要件を満たしていることについての都道府県知事の「円滑化法の認定」を受けましょう。
※「円滑化法の認定」を受けるためには、贈与を受けた年の翌年の1月15日までにその申請を行う必要があります。
贈与を受けた翌年の3月15日までに、贈与税の申告書と認定書の写しその他添付書類を管轄の税務署に提出するとともに、納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。
納税猶予の適用要件が継続されているか確認のため都道府県知事に年次報告書と税務署に継続届出書を毎年1回提出する必要あります。
3年ごとに税務署に継続届出書を提出する必要があります。
事業承継税制は、承継後も継続して会社を経営し続けることを前提としているため、それを満たさなくなった場合には猶予されていた税金を一括納付する必要があります。
事業承継税制の適用を受けるためには複雑な手続きや条件が伴うため、十分な準備と計画が求められます。また、猶予期間中も取り消しを受けないよう要件を満たす必要があります。そのためには、税務や事業承継に関する専門家のアドバイスが不可欠です。
弊所は経営革新等支援機関の認定事務所になります。
「特例承継計画」作成のご支援から贈与・相続後の認定申請や税務申告、納税猶予後の年次報告等、貴社の円滑な事業承継を長期的にご支援いたします。
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